モチベーションと仕事の成果が結びつきません〜。
最新の研究では、高い内発的動機づけと向社会的動機づけの両方があると、個人の創造性が高まることが示唆されているわ。あなたのモチベーションをコントロールできれば、仕事の成果とも結びつくかもよ。
向社会的……?
パンサーの向井さんがたくさんいる社会ですか?
……いやよ、そんなツッコミだらけの世界。
これは向社会的(こうしゃかいてき)と読むのよ。
こんにちは、Yunです!
モチベーション管理について調べるなかで「モチベーションを心理学的に理解したい」「モチベーションの最新理論についてくわしく知りたい」と感じていませんか?
そんな悩みをお持ちの方に、こちらの記事では複数の先行研究をもとに近年話題のモチベーション理論、向社会的動機づけ(プロソーシャル・モチベーション)を紹介します!
この記事を読めば、どんなモチベーションをもつことが組織の創造性を高めるかがわかります!
向社会的動機づけ(PSM)とはなにか
向社会的動機づけ(Prosocial Motivation)とは、他者や社会に貢献することに動機づけられた状態や、その意欲をさします。これはまだ日本ではあまり定着していない用語であり、プロソーシャル・モチベーション理論、PSM理論などとも呼ばれます。
向社会的動機づけは、もともと心理学用語にあった向社会的行動(Prosocial Behavior)の動機として、1980年代ごろから体系化されてきました。
「向社会的」という言葉は、「反社会的」の対義語です。反社会的行動が社会の規律を乱し社会の崩壊を招くのに対し、向社会的行動は円滑な社会づくりを促進し、社会に属する人々に貢献するものです。
向社会的って社会にとっていいことをするってことなんですね!
参考URL(英語)
C. Daniel Batson「Prosocial Motivation: Is it ever Truly Altruistic?」
向社会的動機づけの重要性
向社会的動機づけは社会貢献のような大きな範囲の抽象的な目的だけでなく、他者の役にたつ、人を幸せにするなど身近で具体的な目的も対象としています。
従業員が向社会的動機づけをもつことは、組織にとって以下のようなメリットがあります。
参考URL(英語)
個人に対する向社会的動機づけの利点としては、以下のようなものがあります。
向社会的動機をもつことは相手との共感を生みやすく、また相手からの依頼に対しても寛容になるため、ストレスが軽減しやすいことがわかっています。
人の役に立とうとする気持ちって自分にもメリットがあるんですね!
向社会的動機づけの種類
向社会的動機は多くの場合ひとつの利他的な動機とされますが、いくつかの研究では以下のタイプに分類して分析しています。
積極的向社会的動機づけ(以下、積極的タイプ)は自己に対する利益を目的とした向社会的動機をもちます。「Win-Winの関係」をもっとも築きやすいのがこのタイプになります。
消極的向社会的動機づけ(以下、消極的タイプ)は他者からの要求に応じて向社会的行動をとることを動機とします。
利他的向社会的動機づけ(以下、利他的タイプ)は自己の利益を期待せず、他者を助けることを目的とした動機をもちます。
また、これ以上細分化してとらえている研究もあります。
向社会的動機づけと利他主義の違い
向社会的動機は利他主義を含みますが、すべての向社会的行動が利他主義に基づくわけではありません。
たとえば積極的タイプの向社会的行動は自己の利益や他者からの承認を動機としています。消極的タイプは需要に応えた結果社会や他人に役立つことを動機としています。
他者貢献を目的とし、自己のメリットを考慮しない利他主義に含まれるのは利他的タイプだけです。
いわゆる「Win-Winの関係」は向社会的行動の結果として得られます。利他的タイプは結果としてそのような関係を得ることはあっても、はじめから「Win-Win」の構築を求めることはありません。
向社会的な気持ち = 自己犠牲ってわけではないってことですね。
向社会的動機づけのメリット①:創造性が向上する
向社会的動機は、他者に貢献したい、他者のニーズを満たしたいという欲求から出発します。このような感情は社員を他者視点に立たせ、他者の意見やニーズに対する感度を向上させます。
Yang Liらの研究では向社会的な動機が創造性の向上に役立つということが示されました。この研究では人の創造性が向上するのは高いレベルの向社会的動機づけと同時に、高いレベルの内発的動機づけを持っている場合であることが示されました。
このことから、従来モチベーション理論で重要視されてきた内発的動機づけだけでなく、向社会的動機づけも同様に重要であることが示唆されました。
向社会的動機づけのメリット②:知の共有が生まれる
向社会的動機をもつ人は他者からの依頼を受けたときに、より好意的で寛容な反応を示す傾向にあります。他者に協力しようとする姿勢をもつため、向社会的動機をもつ人は自身のもつ知識や技術を惜しみなく提供します。これにより、組織内で知識が共有されやすい状況が生じます。
向社会的動機づけを育てやすい組織環境
個人が向社会的動機づけをもてるかどうかは、その個人の行動をどのように調節するかによって大きく影響を受けます。
具体的には、成長意欲を促進させる環境では向社会的動機づけをもちやすく、リスクを避ける意識が強い環境では向社会的動機づけはもちにくくなります。
成長意欲を促進させる環境では、人は野心・理想・欲望をもちます。これらをもつ人はポジティブな結果に敏感であり、希望と達成に関心があり、強い内発的動機をもちやすくなります。
このような人は目標達成のためなら他者貢献をいとわない積極的タイプが多く、高い内発的動機づけと高い向社会的動機づけをあわせもつため、創造性を向上しやすくなります。
参考URL(英語)
Luan Zhenzeng「How do Proactive Subordinates Show Higher Level Creativity」
向社会的動機づけを育てにくい組織環境
過度に競争をあおった結果、いきすぎた昇進意欲が求められる環境
従業員が過度な昇進意欲をもった場合、自己利益を追求する意識が他者貢献の意識を上回りすぎてしまい、知識の共有や他者への支援を行わなくなります。このような環境では向社会的動機づけは育まれにくくなります。
過度に競争をあおった結果、リスク予防意識が強くなった環境
リスク予防意識の強い環境では、向社会的動機づけは生まれにくくなります。リスク回避に努める人にとっては知識共有のプロセスすら時間的・感情的コストとして映ります。また、知識を共有することで組織内の特権的で専任的な地位を失うことを危惧することもあります。
このようなリスク予防意識は、競争に負けることを過度に恐れている場合に生じます。リスクへの恐怖が肥大化した人は周囲をサポートしたり、周囲からのサポートを受けたりすることが少ないことがこれまでの研究でわかっています。
向社会的動機づけを育む環境に必要なこと
向社会的動機づけは、「他者視点に立つ」ことを動機としてもてることであり、このような社員を増やすことは組織全体の創造性を高め、イノベーション発生の可能性を高めることにつながります。
上記に示したとおり、向社会的動機づけは過度な昇進意欲とも過度なリスク予防意識ともマッチしません。これらはつまり、過度な競争をあおることは向社会的動機づけとの相性が悪いことを示しています。
ただし、適度な昇進意欲は向社会的動機づけを育みやすいと考えられています。健全な競争環境を用意し、内発的動機づけを促進しつつ向社会的動機をもたせることが組織のクリエイティビティの向上に役立つと言えます。
向社会的動機づけを組織的に育むための具体的な取りくみ
お客様第一主義を掲げる
お客様第一主義を掲げる企業は多くあります。それが本当に社内文化として根付いていれば、社員の向社会的動機づけを育むのに効果的な取りくみと言えます。
子どもであれば、向社会的行動の価値は学校や家庭で教わります。しかし社会人であれば、所属する企業のなかで向社会的動機を得るのがもっとも効果的です。
社内にゆとりをつくり、コミュニケーションを生む
向社会的動機づけには相手に共感する力が重要になります。社員が互いに共感しあうためには、円滑で社会的なコミュニケーションが欠かせません。ピラミッド組織的な上位下達の会議ばかりでなく、普段の時間になにげない会話が生まれるようなゆとりのある社内文化が必要となります。
たとえば、花王では「休み休みWork Style」と称して就業時間内に積極的に休息・休憩をとるようにうながしています。このような取りくみがあれば、社員も仕事をサボっていると思われることを恐れずにコミュニケーションをとることができます。
責任を与え、成長を実感させる
向社会的動機づけが個人の創造性を伸ばすためには、強い内発的動機づけが必要になります。内発的動機づけは形式的な報酬にこだわらない、無形のやりがいや価値のために動こうとする気持ちに基づきます。
社員の向社会的動機と内発的動機の両方を育てるためには、社員に適切な責任を与え、そのことによって成長を実感させることがおすすめです。
成長の実感がやりがいにつながり、社員は強い内発的な動機をもつようになります。