レッジョ・エミリア・アプローチの園って美術専門の保育者がいるって聞いたんですけど、本当ですか?
本当よ。その人はアトリエスタと呼ばれるわ。ただし、別に難しい絵画の技術を教えるわけじゃなくて、あくまで子ども自由な発想のサポートをする存在よ。
楽しそうなんでわたしもなってみたいです、レッジョ・エミリア園児。
園児のほうは無理だと思うけど……。
こんにちは、Yunです!
幼児教育について調べるなかで「レッジョ・エミリア・アプローチってなに?」「レッジョ・エミリア・アプローチの教育方針は?」と疑問に感じていませんか?
そんな疑問をお持ちの方に、こちらの記事ではレッジョ・エミリア・アプローチの特徴や教育理念について解説しています!
この記事を読めばレッジョ・エミリア・アプローチと従来の幼児教育の違いがわかります!
レッジョ・エミリア・アプローチとはなにか
レッジョ・エミリア・アプローチ(以下、レッジョ・エミリア教育)はモンテッソーリ教育、シュタイナー教育などとならぶ世界的に有名な教育手法のひとつです。
レッジョ・エミリア教育は子どもの興味・関心を土台としたうえで、創造性と共同性を育むことを目的とした教育手法です。
もともとはイタリアのレッジョ・エミリア市という一部地域で実践されていた教育手法を体系化したものでしたが、1991年の「News Week」誌によってレッジョ・エミリアによる幼児教育が「世界最高である」と報じられらことによって世界的に有名になりました。
その後アメリカのグーグルやディズニーの社内保育所でもこのレッジョ・エミリア教育が取り入れられたことでさらに話題となりました。
近年は日本でも注目が集まっており、新設の幼稚園・保育園でレッジョ・エミリア教育を取り入れた園が増えてきています。
レッジョ・エミリア教育の歴史
レッジョ・エミリア教育はイタリアのレッジョ・エミリア市ではじまりました。
考案者であるロリス・マラグッツィ氏(1920 – 1994)は第二次世界大戦直後の1946年から教員生活をはじめ、1963年にレッジョ・エミリア市にはじめて幼稚園ができて以降は市立幼稚園の教育コンサルタントとして活躍してきました。
その後、ロリス・マラグッツィの教育手法はレッジョ・エミリア市内の乳幼児センター・幼稚園・小学校などで取り入れられました。
1991年に「News Week」誌でレッジョ・エミリア市のディアナ・プリスクールが世界の学校ベスト10にランクインしたことで、レッジョ・エミリア教育は一躍有名になりました。
レッジョ・エミリア教育の特徴
ペタゴジスタ
レッジョ・エミリア教育では通常の保育者のほかに、教育の専門家(ペタゴジスタ)と美術の専門家(アトリエスタ)が園に配置されます。
ペタゴジスタは専任ではなく、レッジョ・エミリア市内の園をかけもちして巡回します。
ペタゴジスタが訪問する日は保育者とアトリエスタも同席し、子どもたちの様子についての情報を共有し、ペタゴジスタから教育理論や実践方法を学びます。
ペタゴジスタの役割は園長でもあり、コーディネーターでもあり、必要に応じて親へのアドバイスをおこなうこともあります。
アトリエスタ
アトリエスタは多くが大学で美術を専攻した者で、教師と子どもの創造的活動の支援をになっています。
アトリエスタという言葉は誤解されやすいですが、絵画など芸術活動の技術的な指導をおこなうわけではありません。
アトリエスタは子どもたちがおこなうプロジェクト活動のサポーターであり、子どもの創作物や創作過程を多様な視点でとらえて保護者に意義を伝えるメッセンジャーです。
アートはとかく成果物ばかりに目がいきがちですが、アトリエスタはそのプロセスにも注目し、子どもたちの取りくむ様子の観察を重視しています。
子どものイメージ
レッジョ・エミリア教育には「子どものイメージ(Image of the Child)」という言葉があります。これは教育者が子どもに対してもつイメージのことです。
レッジョ・エミリア教育は子どもが豊かな創造性をもち、可能性にあふれた存在だと信じることからはじまります。
プロジェクト
レッジョ・エミリア教育の最大の特徴ともいえるのがこの「プロジェクト」です。
子どもたちは教師と一緒に学び、学んだ内容や制作したものを保護者や友達に発表します。
このプロジェクトは数週間から数か月にわたり、長期のものだと1年かけておこないます。プロジェクトの内容はふつう子どもの興味に応じて選ばれます。プロジェクトは子ども主体で進行し、教師は必要に応じたサポートを提供し、子どもたちをガイドします。
幼児教育のうちから長期的な視点をもってとりくむ経験ができることはレッジョ・エミリア教育以外ではなかなかおこなわれていません。
コラボレーション
レッジョ・エミリア教育の特徴のひとつは活動をグループ単位でおこなうことです。
これにより対話や協力が生まれ、子どもたちは社会性と他者からの刺激によるインスピレーションを得ることができます。
100の言葉
レッジョ・エミリア教育の理念は創始者ロリス・マラグッツィ作の詩「100の言葉(100 languages)」に込められています。
この詩の趣旨は、子どもの言語(コミュニケーション手段)は言葉だけではなく、遊びや歌、絵などさまざまなものがあることを大人が理解すべきであるということです。
レッジョ・エミリア教育は石、木、紙など自然のなかから手に入れたものをつかったり、においをかいだり、絵を描いたり、さまざまな方法で子どもの可能性を引き出します。
以下は詩の一部抜粋です。
子どもは
ローリス・マラグッツィ・作 佐藤学・訳
百のものでつくられている。
子どもは
百の言葉を
百の手を
百の思いを
百の考え方を
百の遊び方や話し方を持っている。
さまざまな発表形式
上記の「100の言葉」の理念をもとに、レッジョ・エミリア教育では子どもが多様な手段で自己表現できるようにすることを重視します。
子どもたちはお絵描き・演劇・ダンス・演奏・人形劇などさまざまな発表形式を経験します。そのため、絵が苦手な子どもが歌で活躍したり、またはその反対のことが起こり得ます。
レッジョ・エミリアの「100の言葉」の理念は多様な個性をもつ子どもにそれぞれのチャンスを与えています。
環境づくり
レッジョ・エミリア教育では環境を「第3の教師」ととらえています。教室内は採光に気をつかい、植物が置かれ、絵画などの美術品が飾られており、おもちゃや教材もセンスのいいものばかりです。
広くて豪華な自宅をイメージさせる教室環境はモンテッソーリ教育のものとも似ていますが、レッジョ・エミリア教育では子どものインスピレーションを刺激して創造性を育むことをより重視しています。
ピアッツァとアトリエ
レッジョ・エミリア教育は施設内にピアッツァ(共有スペースとなる広い空間)とアトリエを置くのが特徴です。
ピアッツァは元来、イタリアではどの町にも広場があり、市民の共有スペースとして会話や集会、政治の場として活用されてきたことに由来しています。
これはイタリア流多目的スペースであるわけですが、ただの広い空間ではなく、子どもたちがさまざまな活動をしたり、会話しあえたりするように調節された空間となっています。
アトリエは子どもたちの創作活動の場です。ドラムセットやパソコンなど、ふつうの日本の園ではなかなか見られないようなものが置かれているかと思えば、落ち葉や小石、木の実などの自然物が保管されていることもあります。
「100の言葉」の理念をもつレッジョ・エミリア教育のアトリエは、子どもたちの感性やモチベーションを刺激するさまざまなものに満ちています。
ドキュメンテーション
レッジョ・エミリア教育は子どもの活動の記録を「ドキュメンテーション」と呼び、それを子どもどうしや保護者と共有することを大切にしています。
ドキュメンテーション(文書)とはいいますが、実際には子どもがつくった創作物そのもの・写真・動画などに教師がひとことを添えて飾るのが中心です。
ただしドキュメンテーションはふつうの幼稚園・保育園で創作物を飾ること以上に「子ども自身に活動内容を振り返させること」「教師が子どもたちの様子を把握すること」を意識しています。
レッジョ・エミリアのドキュメンテーションは近年の日本の学校教育で重視されている「ポートフォリオ」の概念と似ています。
ドキュメンテーションによって教師はつねに子どもの様子とプロジェクトの進捗を理解することができ、より良い教育の提供を可能にしています。
日本でレッジョ・エミリア教育をおこなっている教育機関・施設
レッジョ・エミリア教育に興味があれば、日本で実践している幼稚園・保育園をさがしてみましょう。
レッジョ・エミリア教育を受けられる教育機関は都市部にやや偏りがありますが、注目されだした教育手法であるため今後は拡大していくことも考えられます。
こちらの記事では東京・大阪のレッジョ・エミリア教育を受けられる教育機関・施設を紹介します。
東京都
レッジョ・エミリア市の教育機関「レッジョ・チルドレン」のインターナショナルネットワークに加入している保育園・こども園です。
レッジョ・エミリア教育を推進しており、日本版レッジョ・エミリアの保育・教育実践を積極的に海外にも発信しています。
上記まちの保育園・こども園と同じく、日本のレッジョ・エミリア公式団体JIREAの窓口である「まちの研究所」が運営する保育園です。まちの保育園・こども園とともにレッジョ・エミリア教育を推進しています。
大阪府
アートをとおして思考力や想像力を育み、主体的に活動できる子どもを育てることを理念としている保育園です。
レッジョ・エミリア教育の理念のなかでもグループでの学び合い、話し合い・コミュニケーションを特に重視した教育を提供している保育園です。
自由な想像空間(アトリエ)で創作を楽しみ、知的好奇心を育むことを理念としている保育園です。大阪府内に3つの園があり、すべてレッジョ・エミリア教育を提供しています。
クラスで対話してテーマを決め、プロジェクト活動をおこなう認定こども園です。各学年20〜25名の少人数学級編成で、先生と子どもがしっかりと関わり合える環境になっています。
こちらは教育機関ではなく、2022年に開業した星野リゾートホテル内のアトリエです。JIREAのボードメンバーである「まちの研究所」が協力していて、ホテル滞在中の子どもたちにレッジョ・エミリア教育を体験させることができます。