頭の良さってなにで決まるんですか?
その質問の答えは「わからない」よ。ただ、スピアマンという心理学者は知能全般にかかわる因子があると考え、それを「g因子」と呼んだわ。有名な「スピアマンの2因子説」ね。
じゃあ、g団子があればわたしのIQも1000超えですね!
gダンゴじゃなくてg因子よ。
こういう言語理解もIQのうちなんだけど……。
こんにちは、Yunです!
知能やIQについて調べるなかで「g因子ってなに?」「一般知能ってなに?」と疑問に感じていませんか?
そんな悩みをお持ちの方に、こちらの記事では先行研究をもとにスピアマンの2因子説や、その後のg因子に関する理論について解説します!
この記事を読めば、知能にかかわる主要な理論がわかります!
スピアマンの2因子説とはなにか
スピアマンの2因子説とはイギリスの心理学者チャールズ・スピアマンによって提唱された知能モデルに関する理論です。
スピアマンは学力テストにおいてつねに相関する要素と、そうでない要素を発見しました。そしてすべてのテストに相関する要素をg因子、テストごとに異なる関係をみせる要素をs因子と名づけました。
スピアマンの2因子説がそれまでの研究と異なる点は、ある分野で優れた成績を収める人はほかの分野でも成功しやすいことを統計的手法で明らかにしたことです。
g因子とはなにか
g因子は1904年にスピアマンが知能の2因子理論を論文で発表したなかで用いられた用語です。
g因子(g-factor)の「g」は「General Intelligence(一般知能)」の略です。g因子とは人の知能全体に影響する要素であり、あらゆる認知能力の基礎となる要素です。
その後の研究によって、知能検査のすべての課題において、言語処理か計算かなどの分野にかかわらず、このg因子が影響していることがわかりました。現在の知能検査のほとんどが、スピアマンのg因子に影響を受けた因子モデルを採用しています。
スピアマン自身は、g因子について次のように解説しています。
g因子とはなにかについては、用語と事実を区別する必要があります。g因子は統計から導かれる特定の量を意味します。特定の条件下の心理テストの結果は2つの要素から分析できます。そのうちの1つはすべてのテストでつねに同じですが、もう1つはテストごとに異なります。前者をg(一般因子)と呼び、後者を特定因子と呼びます。g因子とはスコアの要素であり、それ以上のものではありません。
出典:スピアマンの発言「国際試験調査会議の記録(1931−1938)(英語)」より
g因子とs因子はどちらが重要なのか
g因子とs因子では、g因子のほうがより広範な知的活動や人生の成功に関係します。
現代では、知能は階層的構造であるというのが定説です。
たとえばピラミッド組織の企業には、全体に影響を与える社長と、末端で個々の異なる業務をする社員がいます。これと同じく、知能も全体に影響を与えるg因子と個別の働きをするs因子があると考えられているのです。
社長(g因子)は社員(s因子)に影響しますが、その逆はありません。g因子を伸ばさないかぎりは、知能全体の底上げはできないと考えられています。
このような理由で、より上位の存在であるg因子が重要であると考えられています。
キャッテルによる流動性知能と結晶性知能
イギリスの心理学者レイモンド・キャッテルはスピアマンの一般知能理論を支持しましたが、高齢期において知能の低下が2パターンに分かれることから、知能には流動的なものと結晶的なものがあると考えました。
流動性知能(Gf)
流動性知能(Fluid Intelligence / Gf)とは、環境との相互作用を通じて獲得する知能をさします。
流動性知能の特徴は、過去の学習や経験とは無関係である点です。世間的な「地頭がいい」という表現はこの流動性知能の高さをさす場合が多いと考えられます。
流動性知能はものとものの関係性を認識する能力でもあり、この能力が高いことには以下のようなメリットがあります。
流動性知能は加齢とともに低下する傾向があります(参考文献:英語)。
結晶性知能(Gc)
結晶性知能(Crystallized Intelligence / Gc)とは、事実や経験にもとづく知能をさします。これは流動性知能と異なり、経験量や学習量が影響します。
結晶性知能が高いことは以下のようなメリットがあります。
学習量が多いほど結晶化した知能は蓄積されます。結晶性知能は年齢とともに増加する傾向にあります。
一般知能を構成する要素
人の一般知能を構成する要素については、さまざまな要因が指摘されています。一般知能には多くの理論が存在しますが、ここではスピアマンのg因子を拡張した「Gf-Gc理論」と「CHC理論」について解説します。
キャッテルのGf-Gc理論
上述のとおり、レイモンド・キャッテルは一般知能に2つの種類があると理論化しました。
キャッテル、ホーン、キャロルによるCHC理論
知能のCHC理論とは、キャッテルのGf-Gc理論をジョン・ホーン、ジョン・キャロルが拡張した理論を統合したもののことです(参考文献:英語)。
ここでは一般知能には次のような要素が関係すると考えられています。(用語の訳し方は文献により異なります)
また、これらの要素もさらに細分化された要素から構成されており、ひとくちに一般知能といっても多くの要素で構成された複雑な構造物であることがわかります。
一般知能を測定する方法
現代おこなわれている知能検査は、一般知能の要素の一部しか測定できません。たとえば、主流な成人用の知能検査であるWAISで測定できない知能の要素には以下のものがあります。
知能が高いことにはメリットがありますが、それは知能検査によるIQというスコアでは計りきれていない部分が存在します。
このことはIQに関して理解しておくべき重要な点であり、IQを人間的な能力の高さや知的能力そのものだと誤解しないようにしなければいけません。
g因子が人生に与える影響
g因子は取り扱いに注意が必要な概念であり、g因子だけで人生が決まると考えるべきではありません。ましてや、一般知能の一部を切り取ったIQが人生の成功を決めると考えるのは誤った判断です。
ただし、従来の研究からg因子との関係が示唆されている領域は存在します。
学力
g因子がもっとも深く関わる領域は学校の成績です。
一般知能は学業に深く関係しますが、一般知能だけで学業成績が決まるわけではないことも研究で示唆されています。ロシアでおこなわれた研究では、達成度の50%以上はg因子では説明できないという結果もでています。(参考文献:英語)
このことは、子どもの学力が一般知能の影響を受けつつも、それ以上に重要な他の要因がある可能性を表しています。
仕事の成功
長い間高い知能が仕事の成功に影響すると考えられてきました。
2020年に発表された論文では、一般心理能力(以下、GMA)は単一の特定の能力(言語処理や視覚処理など)はともに収入やキャリアを予測するうえで重要な因子であると結論づけました(参考文献:英語)。GMAは知能の根幹となるものであり、ここではg因子とほぼ同一の概念です。
500万人以上のデータを含む2万件の過去の研究から算出した結果では、GMAによる仕事のパフォーマンスの平均予測的妥当性は0.5でした(参考文献:英語)。このことはGMAによる仕事のパフォーマンスの分散の割合が25%であることを表し、GMAがすべての仕事のパフォーマンスの4分の1を予測できることを意味します。この数値のインパクトは大きく、企業の採用に心理テストが普及している理由はここにあります。
また、仕事の内容が複雑であるほどg因子との関係が深まるという研究結果があります(参考文献:英語)。これはある意味当然ですが、高度に知的な業務に従事しているなら、仕事の成功とg因子は密接に関係します。
ただし、一般知能と仕事の成功の関係に疑問を呈する研究者も多くいます。
g因子の課題
g因子は心理学において物議をかもしている概念であり、一部の研究者は、認知能力間の正の相関を説明できる単一の基礎的因子は存在しないと主張しています。
そもそもスピアマンのg因子やCHC理論の範囲外である人の能力には以下のようなものがあります。
上記は非認知能力とも呼ばれ、脳機能が深く関わる能力でありながら、WAISなどの知能検査では測定できない能力です。
また、心理学全般が抱える問題もg因子の課題と言えます。
ふつう科学的手法では目に見えない機能を検証する際に観察可能な対象の変化と機械的に関連づけます。たとえば飲酒運転をしているかどうかは呼気中のアルコール量で測られ、病気に感染しているかどうかは血中の白血球の数やウイルスの量などで測られます。
しかし、一般知能に関してはこのような検査方法も理論も存在していません。あくまで統計的手法により、テストスコアのさまざまな側面を相互に比較することで検証しています。
つまり、IQと学業成績などのあいだに中程度の相関関係があることは間違いないのですが、そのIQを構成する要素を物質レベルでは特定できていない、という課題があります。